発達障害克服への取組みと成果

セロトニントランスポーター(5HTT)とは

2014年5月21日 | カテゴリー/原因解明と治療法の開発

異なる神経間の情報伝達はシナップスで行われる
神経細胞は細胞体から2種の突起がでます。太くて短い多数の突起と一本の長い突起です(図1)。
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前者は樹状突起、後者は軸索突起と呼ばれます。神経細胞Aの情報は神経細胞Aの軸索突起から神経細胞Bの樹状突起へと伝えられることにより伝達されます。この伝達が行われる部位をシナップスと言います(図2)。
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軸索突起の先端は膨らみ軸索終末と呼ばれ、そこには多数の小胞が観察されます(図2)。これがシナップス小胞です。このシナップス小胞の中には神経細胞体で生成された物質が長い軸索内を輸送され最終的に軸索終末直前でシナップス小胞の中に組み込まれます。軸索終末部とそれが接する樹状突起の間はシナップス間隙と呼ばれます。神経細胞Aの構成分をPre側の構成分、神経細胞Bの構成分をPost側の構成分と称します(図2)。

神経細胞Aが興奮するとその軸索終末に含まれるシナップス小胞がPre側のシナップス膜に接着し、そこから内容物をシナップス間隙に放出します(図3緑丸)。放出された内容物はPost側のシナップス膜に存在するその内容物に特異的に結合するタンパク質と結合します(図3-1)。このたんぱく質は受容体と呼ばれます。内容物と受容体が結合はPost側でその結合に特異的なイベントを引き起こします。このようにしてPre側の情報がPost側に伝わります。Pre側からPost 側に情報を伝えるシナップス小胞に含まれる物質を神経伝達物質と呼びます。
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神経伝達物質の種類
現在ではアセチルコリン、モノアミン(ドーパミン、ノルアドレナリン、アドレナリン、セロトニン)、各種神経ペプチド(P物質など)、各種アミノ酸(GABA,グルタミン酸など)きわめて多数が認められています。以前は一つのニューロンは一種類の神経伝達物質しか有しないとされてきましたが、現在では単一の神経細胞に複数の神経伝達物質が共存することが知られています。しかしながら、神経間の伝達様式には興奮か抑制しかなく、なぜこのように多数の神経伝達物質が用意されているかは明らかではありません。

神経系のトランスポーター
神経系のトランスポーターには神経伝達物質トランスポーターと小胞性トランスポーターが存在します。神経伝達物質がシナップス間隙に放出されたままならシナップス間隙の神経伝達物質の量はいつまでも変わりません。そうなるといつまでたっても伝達が続くことになります。それではやはり困りますから神経伝達を停止する機構が存在しなければなりません。それがPre側のシナップス膜に存在する神経伝達物質トランスポーターです。セロトニン(5HT)にはセロトニン独自のトランスポーターが存在します。それがセロトニントランスポーター(5HTT)です。5HTTはシナップス間隙に遊離されたセロトニンをPre側に取り込み、シナップス間隙のセロトニン量を減らし、シナップス伝達を終了させます(図3-2)。
うつ病の治療に用いられる薬はこの5HTTの阻害剤で、シナップス間隙のセロトニン量が減弱するのを防いで、セロトニンの効果を高めようとするものです。5HTTは脳のみならず血小板(血中のセロトニンはここで作られます)、胎盤、肺にも存在します。またコカイン中毒で有名なコカインはドーパミントランスポーターと結合してドーパミンのPre側への取り込みを阻害しシナップス間隙にドーパミンが蓄積し、その結果Post側の反応が過剰になります。コカイン中毒による快感、精神症状はこの作用に由来します。これまでの説明でわかるように神経伝達物質トランスポーターの制御は精神活動の制御に大きくかかわってきます。このように神経伝達物質トランスポーターはPre側のシナップス膜に存在するのが原則ですが、シナップスを取り囲むグリア細胞やPost側に存在するケースも伝達物質によっては存在します。
一方、Pre側に取り込まれた神経伝達物質はシナップス小胞に取り込まれねばなりません。シナップス小胞の膜に存在し神経伝達物質をシナップス小胞に取り込む役割を担うトランスポーターを小胞性トランスポーターと呼びます(図3-3)。この小胞性トランスポーターは神経伝達物質トランスポーターほど神経伝達物質に対する特異性はなく例えばモノアミンは一括して小胞性モノアミントランスポーターで小胞に取り込まれると考えられています。

最後に
これからのトピックス3題は自閉症の発症に5HTTが関与する可能性を示すものです。5HTTが機能しない理由として想像できるのは、1)構造がおかしい、2)5HTTの機能障害が起きている、3)5HTTのPre側シナップス膜への組み込みが阻害されている、などが考えられます。とりわけ5HTTのPre側シナップス膜への輸送の分子機構については依然不明のままです。

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